前回までは自社の事業内容を把握したうえで、優先順位付けを行いました。
どんな状況になったら誰が判断を下すのか、まで決めておけば、いざという時に慌てなくて済むはずです。
第3弾は、緊急事態のシミュレーションを行います。
(1)の記事で紹介した「策定手順」における3)と4)に相当します。
まずは「どんな被害が想定されるか」を考えることから始めます。
想定される被害に対し、対策を考えるところまでが一連の流れです。
BCP策定のための緊急事態シミュレーション 被害想定と対策
地震などの自然災害と、感染症拡大時は、被害の状況が異なります。
地震・台風などの自然災害は主にインフラ・施設面で重大な被害を受けます。
一方、感染症拡大時は
・人(従業員・その家族・お客様)
・情報(正しい情報を発信できるか、正しい情報を受け取れるか、顧客情報)
・モノ(感染対策用品の不足、サービス提供に必要な物資の不足)
・カネ(休業要請やお客様の減少に伴う売り上げ減少、家賃支払いなど)
の4つの経営資源に対して、より甚大な被害が及ぶとされています。
具体的な被害内容をシミュレーションし、対策を考えましょう。
いずれも、2020年2月下旬からの自社の動きを思い返してみると、より具体的に想像ができるのではないでしょうか。
被害その1 人
![被害想定(1)人](https://withcovid-19.jp/wp-content/uploads/2020/11/shutterstock_1149593039.jpg)
想定
例)
・従業員(自分も含む)が感染する
・従業員の家族が感染し、出勤できない
・学校や幼稚園・保育園が閉鎖され、子供を預けられず出勤できない人がいる
・お客様が来なくなる
・感染に気づかない人が来店する
大きく人のリソースが不足する懸念、お客様の来店に関する懸念が浮かび上がってきます。
対策
人のリソースにまつわる対策は、以下のようなものが想定できるのではないでしょうか。
例)
・代替要員の確保
系列店がある場合は人を派遣してもらう仕組みづくり、近隣の店舗との協力など
・属人的業務をなくす
「Aさんが居なければできない業務」をなくすため、教育・スキルトランスファーを行う
・優先順位が低い事業を一旦停止する
前回定めた優先順位に基づき、優先順位の低いもののサービス提供を取りやめる
お客様の来店に関する対策の一例は以下のようになります。
例)
・日ごろから衛生環境を保って営業していることを発信する
・予約・来店時の健康チェックを実施し、入店できない基準を設ける
・入店時に必要な衛生対策を決めておく(アルコール消毒・マスク着用など)
いずれも、今実施していることの延長線上にあるのではないでしょうか。
被害その2 情報
想定
情報は「受け取る」こと、「発信する」ことの二つに分けて考えましょう。
例)
・感染に対し正しい情報を受け取れない
・地域の動き、活動の正しい情報を手に入れられない
・業界団体などの従うべき指針がわからない
自社からの発信は主にSNSや自社サイト・アプリなど、ウェブを使ったサービスを使用しているもの、DMなどが考えられます。
発信の際、場合によっては顧客情報が必要になります。
例)
・自社が営業情報を発信する環境・設備がない
・DMなどで情報を発信するための顧客情報が自社にない
情報は顧客とのつながりを維持する大事な経営資源です。
緊急時こそ、顧客とのつながりを維持できるかが経営状況を左右します。
対策
情報の被害想定に対してとれる策は、以下のような例が挙げられます。
例)
・業界団体、商工会や商店街など地域の団体に所属する
・自治体など、行政で頼れる場所を確認しておく
・ウェブサービスを使った自社の情報発信の仕組みづくりをする
・顧客情報を自社で管理し、定期的にお客様とコミュニケーションが図れるようにする
その3 モノ
想定
2020年の3月から5月にかけてマスクやアルコール消毒液が不足したことは、記憶に新しいことではないかと思います。
このように、もし感染症が拡大したらどうなるかを「モノ」の観点で考えます。
例)
・感染症対策用品が不足する(マスク、消毒剤など)
・空気清浄器など、新たな備品が必要になる
・●●業務に必要な××が、ベンダーの休業・倒産等で手に入らなくなる
など、具体的な商品が不足することが考えられます。
対策
緊急事態が継続したときに、1か月営業するためにはどれくらいの物資が必要になるでしょうか。
それを基に、定めた期間分の数量を備蓄として自社で保管しておくのが一番の策でしょう。
また、代替品が設定できる場合は何を代替品とするか、定めておきましょう。
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その4 カネ
![被害想定(4)カネ](https://withcovid-19.jp/wp-content/uploads/2020/11/shutterstock_1705149439.jpg)
想定
1か月の運営にどれくらいのお金が必要なのかを算出します。
経営者ならば1か月の運転資金についておおよそ把握していると思いますので、難しいことではありません。
例)
・従業員の給与
・家賃
・水道光熱費
・広告宣伝費
・道具のレンタル費用 など
対策
ひと月の売り上げが万が一0となった場合、どのように補填するのかを具体的に考えます。
例)
・融資を受けられる金融機関をリストアップする
・補助金、助成金など、受けられる公的制度を確認する
※申請に必要な情報が何か把握しておく
・広告宣伝費など、変動費で抑えることができる項目をカットする
たとえ売り上げがなくなったとしても、店舗を構えている以上、人件費や家賃などの固定費が必要になります。
固定費を確保するためのプランをいくつか想定しておきましょう。
考えのヒント
例えば、「お客様が来なくなる可能性」は人に関する被害想定です。
これに対し、「情報を発信して定期的に顧客とのつながりを維持する」という情報を駆使した対策を考えることもできます。
属人的業務をなくすための教育に、動画などを使用したオンラインを用いた手法を提案することもできます。
さまざまな経営資源を掛け合わせて対策を考えてください。
注意事項
上記はあくまでも一例です。
感染症の特性、種類やお店の特徴、地域、サービス内容などで想定できる内容は大きく変わります。
自社のことを把握し、最適解を考えられるのは経営者のあなたです。
上記を参考にし、自社に必要な対策を考えてください。
中小企業庁の資料に、新型インフルエンザ(強毒性)の感染拡大時に想定される影響をまとめた資料があります。
どんなことが実際に想定されるのか、参考にしてください。
BCP策定のための緊急事態シミュレーション 情報の伝達ができる組織づくり
もう一つ、シミュレーションする必要があるのが「情報伝達」です。
普段の指示、連絡は店長・社長の立場である経営者が行っているかと思いますが、万が一不在の場合の対応を考えておきましょう。
あらかじめ代理を立てておけば、代理に指名されている人も何をするべきかが明確です。
地域や系列内店舗との情報連携が必要になる場面もあります。
そうした業務を一任できる方を選出しておきましょう。
まとめ
今回紹介した策定内容も、前回定めた業務の優先順位、前々回に確認した全体の業務内容とも深くかかわってきます。
一つ一つ、確認しながら進めていくと理解も深まるでしょう。
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