コロナ禍において、先行きが不透明な世情に不安を覚える方も多いのではないでしょうか。
それは、経営者であっても、従業員という立場であっても同じです。
それでもなお、経営者に求められるのはリーダーシップである、という興味深いアンケート結果が公表されました。
実際に強力なビジョンが示された例も見ていきながら、美容室の経営でどんなリスクを回避できる可能性があるのかを見ていきます。
コロナ禍で浮かび上がる経営リスク
コロナ禍で考えうる様々なリスクのうち、大きなのはこの2つではないでしょうか。
・従業員の離職
・急激な感染増に伴う経営状況の悪化、事業継続が困難な状況
現在の状況に目を向けると、感染者急増でいつ感染するかわからないというリスクが常に付きまといます。
美容師の職業特有のリスクに対して、ストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。
アシスタントなど、責任があまりないポジションにいる従業員は特に、自分がなぜ働くのか、リスクを冒してまで働く理由とは何かを疑問視している可能性もあります。
自分の働き方に疑問を持ったり、場合によっては離職する人もいるかもしれません。
経営者にとって、そうした離職の可能性がリスクとなることは言うまでもないことでしょう。
もちろん、急激な感染増加などの緊急事態で経営状況が悪化し、事業を継続できなくなるリスクも否めません。
こうした事態を乗り切るために必要なことは何でしょうか。
コロナ禍に求められるのは「ビジョンを語る経営者」
日経マーケティングポータルは、全国の会社員を対象に行ったアンケート結果を公表しました。
「勤め先の経営トップに語ってほしいこと」というアンケート項目に対する自由回答で、「今後のこと」や、「経営ビジョン」など、先の見通せない現代で所属する組織がどのように考え、進んでいくのかを知りたいという回答が最も多くなったといいます。
更に、そのように今後のことを語ってほしいと回答した方は、他のアンケート結果から、勤務先に愛着を持ち、仕事に対して積極的に取り組んでいることもわかりました。
このことから、コロナ禍で生き延びる会社組織を作るために必要なことは
経営者がビジョンを語り、社員と認識を共有すること
と考えることができます。
星野リゾート代表が経営者として行ったコロナ対策
実際に、コロナ対策の一環として、経営者が従業員にビジョンを早急に示した例を紹介します。
星野リゾート代表の星野佳路氏は、リゾートとITをテーマとした国際展示会「ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市 2020」において、星野リゾートのコロナ対策を語りました。
この中で星野氏は、4月~5月の売り上げ90%マイナスという非常事態に対して、経営を維持するための、「基本3大方針」を社員に素早く提示したそうです。
星野リゾートは全国に1,500人以上の従業員を抱える企業ですが、こうした方針に加えて「どう乗り切るか」というアイディアを次々とブログで発信していきました。
具体的には、短期的に「現金重視」「人材維持」「顧客満足度・ブランド戦略の優先順位を下げる」という基本方針を提示。
これによって、全国各地の従業員が現場レベルで判断を行いやすくなったといいます。
それに加え、旅行ニーズの復活時期を、過去の感染症流行から予測したうえで、いつ、どのように売り上げを得るかというシミュレーションを次々と発信していったそうです。
事実、星野リゾートが復活のポイントとして挙げた「マイクロツーリズム(※)」があります。
このマイクロツーリズムというアイディアが、国内旅行需要の高まりと新型コロナウイルスの感染拡大を防止する考えにうまくマッチし、稼働率90%を超える好成績を残したといいます。
(※)マイクロツーリズム
遠方や海外への旅行に対し、3密を避けて地元の方が近場で過ごす旅のスタイル。自宅から1~2時間程度の距離で安心、安全に過ごしながら地域の魅力を深く知るきっかけとなる。
星野リゾートHP「星野リゾートの『マイクロツーリズム』ご近所旅行のススメ」より引用
ほか、「倒産確率発表」など会社の実情を赤裸々に公開することで、社員が同じ方向を向き、状況を改善するためのビジネスに取り組むことができたといいます。
こうしたことができたのは、常日頃から中長期的な戦略を考慮しつつも、緊急事態に直面して「何が重要か」を取捨選択できたから、と星野氏は語ります。
もちろん、事業規模や業種、その後のGoToキャンペーンの恩恵など、多岐にわたる特殊な事情があることは否めません。
しかし、人を雇い経済活動を進める以上、手本とするべきことがたくさんあるように思います。
美容室がコロナ禍の経営リスクを回避するために必要なこと
「働く理由」をビジョンにして共有しよう
先に示したアンケートや、星野リゾートの話はあくまでも大企業の話です。
しかし、だからといって美容室には関係ない、ということは有りません。
冒頭で示したものを経営リスクと考えるならば、それを排除するためにやるべきことの基本は変わりません。
「経営のビジョン」というと難しく考えてしまいます。
しかし、「何のために働くのか」と言い換えると、経営者以外でも身近なものとしてとらえられるのではないでしょうか。
もちろんお金を稼ぐためではありますが、地域のために役に立つ、技術の向上を目指す、など、金銭面以外の「働く理由」があるのではないでしょうか。
その理由を従業員と共有し、共通の認識とすることで、従業員の会社・店舗に対する帰属意識(ロイヤリティ)が高まります。
可能であれば、そのビジョンを実現するための施策を提示します。
ビジョンを因数分解し、実現するための道筋をもって施策を立てられるとよいでしょう。
すると、日々の活動に対して目的意識が持て、先に示した様々なリスクを回避することができます。
ビジョンを基にBCPを作ろう
BCP策定は、経営のビジョンに基づいて行われるものです。
BCPが策定されていると、緊急時に素早く次の対応を取ることができます。
緊急時の素早い対応は、従業員や取引先に対して「事業を継続させるための備えがある」と評価され、社会的な価値を生み出します。
先に示した星野リゾートの例では、緊急事態における素早い経営判断が会社としての明暗を分けたといっても過言ではありません。
これは、そのとき何が必要かを瞬時に判断できる備えがあったから。
つまり、企業のBCPを確実に発動できた、と考えることができます。
緊急事態において何が必要で、何を切り捨てても問題ないのか。
日ごろの経営状況を把握し、受けるダメージを最小限にする備えが必要なことがわかる例です。
ビジョンを共有し、いざという時の備えをしておくことで、緊急時のリスクを格段に減らすことができるのです。
まとめ
経営者のリーダーシップは組織力に直結するもの、とまで言われています。
ビジョン、つまり働く目的を示し、そのために必要な行動をとることが、今このコロナ禍において最も求められていることではないでしょうか。
参考
・「Withコロナ時代こそ、経営者がビジョンを語ることが重要―1000人アンケートの自由回答データから―(日経マーケティングポータル)
https://marketing.nikkei.co.jp/media/newspaper/planning_guide/topinterview_2/
・『「リゾテックおきなわ」レポ:星野リゾートのすごいコロナ対策』(盛田諒)(ASCII.jp×ビジネス)
https://ascii.jp/elem/000/004/033/4033664/
・「星野リゾート星野佳路代表が“倒産確率”を公表した理由 『組織を強くするマネジメント』とは?」(ITmedia ビジネスオンライン)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2011/13/news010.html